本ページでは、改良メダカの用語(遺伝や色素胞に関する)について解説します。かなり長い記事なので、目次から知りたい情報だけを選択して閲覧することをオススメします。
目次
はじめに
メダカの特徴と遺伝は切っても切り離せない関係にあります。メダカを始めると、様々な遺伝用語を見る機会があるかと思います。このページでは、メダカを楽しむにあたって知っておくと便利な遺伝の知識、メダカの体色を表現している色素胞についての知識をめだかの館なりに調べてまとめました。様々な用語を知っておくと、メダカ愛好家同士で話をする際にも便利です。
なお、めだかの館は遺伝の専門家ではございませんので、学術的な誤り等があるかも知れませんがご容赦下さいませ。
メダカの特徴
私たちはメダカの何を楽しんでいるでしょう?メダカの「特徴」を見て楽しんでいますね。では特徴とはなんでしょう?
特徴には、大きく分けると目に見えるものと目に見えないものがあります。体色や体型やヒレの変化などは目に見える特徴で、病気に弱い、などは目に見えない特徴です。このような特徴を形質(けいしつ)ともいいます。メダカでは、主に目に見える特徴(形質)を楽しんでいることになります。
遺伝形質と獲得形質
形質は子に伝わるものとそうでないものがあります。子に伝わるものを遺伝形質、伝わらないものを獲得形質といいます(例えば、筋トレで鍛えた筋肉など)。
メダカでは、遺伝形質を特に大切にするので、遺伝形質のことを形質と呼ぶことが多いです。形質が次世代に伝わる事を、遺伝すると言い、その役割を果たしているのが遺伝子(DNA)です。遺伝子とDNAの違いは後程説明します。
野生メダカと改良メダカ
面白い特徴(形質)を親から子供に繋げる事がメダカの楽しみです。私達が楽しんでいるのは、野生メダカとは異なる改良メダカです。他にも、改良品種メダカ、観賞用メダカ、変わりメダカなど色々呼ばれますが、どれも野生と異なる形質を持つ、鑑賞に特化して作られたメダカです。
実は、野生メダカも改良メダカも、同じニホンメダカ(Oryzias lapties)という種なんです。では、野生メダカと改良メダカは何が違うでしょうか?答えは品種が違います。品種とは、同じ種(ニホンメダカ)の中で、さらに細かい分類をするためのグループです。ヒメダカやシロメダカなど、体色が異なるメダカを区別するために、品種というグループわけをしています。メダカと言う一種類の種(厳密には2種類です)の中に、色んな形質を持ったメダカがいるイメージです。
下の図で3匹のメダカがいますが、それぞれ体色が茶、オレンジ、白と異なります。これらを区別するために、体色がオレンジのメダカの品種名を「ヒメダカ」、白のメダカの品種名を「シロメダカ」としています。
品種と固定率
メダカの品種は、メダカの形質によって区別されます。メダカには35種類の形質があり、その組み合わせで品種を分類できます。そして、今までにない形質(または形質の組合せ)を持った品種を新品種と呼びます。ただし、その形質が子に遺伝しなければそのメダカは新品種とは呼べません。
品種・飼育編でくわしくまとめています。
親の特徴が子に現れないことを、形質が遺伝していない、と表現します。どのくらいの確率で形質が遺伝するかを、固定率と言います。
例えば、体色が朱赤色同士の親から、朱赤体色のメダカが70匹、白体色のメダカが30匹産まれたとします。その場合の固定率は、70/(70+30)×100=70%となります。固定率は、メダカを何世代も交配し続ける(累代交配)ことによって高めることができます。めだかの館では、固定率30%を目安に品種と認定しています。
遺伝子とDNAと染色体
形質は遺伝する、と説明しましたが、具体的にどうやって親から子に遺伝するのでしょうか。
形質は遺伝子(DNA)によって遺伝します。DNA、遺伝子、そして染色体の違いのイメージ図を下に示しました。
DNAはただの細い糸で、文字がずらーっと並んでいるようなものです。すごく長い1本の文章だと想像してください。その文章すべてが遺伝に関わっているのではなく、特定の「意味のある部分」だけが、形質の遺伝に関わります。その部分を遺伝子と言います。図の「めだかすき」の部分が遺伝子です。
さて、細い長いDNAはそのままだと長すぎて不便なので、実際はきれいに折り畳まっています。この折り畳まった状態を染色体と言います。文書をまとめた本みたいなものです。
イメージをまとめると、DNAが文字の並び、遺伝子が意味のある文章の部分、染色体は文字を収めた本、と考えてください。
形質は遺伝する
形質がどのように遺伝するかは、メンデルによって調べられました。中学校で、丸とシワのエンドウマメの遺伝を学びますね。メダカも同じ法則が成り立ちます。野生メダカとヒメダカの体色の違いは、B遺伝子によって決まります。野生メダカをBB、ヒメダカをrrとします。
Bとb、どちらの遺伝子を持つかで体色が異なります。この遺伝子を対立遺伝子と言います。そして、染色体上での遺伝子の場所を遺伝子座と言います。遺伝子座は遺伝子が座っているイスのようなイメージです。遺伝子座の遺伝子の組み合わせが同じ事をホモ、違うことをヘテロと言います。
BBやBbのような遺伝子の組み合わせを遺伝子型、実際に表に現れる特徴を表現型と言います。遺伝子型の異なる2個体間の交配を交雑と呼びます(メダカでは単に交配という場合もあります)。
上図のように異なる形質の個体同士を交雑させると、子(F1:雑種第1世代)にはどちらかの形質が現れます。現れる形質を優性(顕性)形質、現れない形質を劣性(潜性)形質と呼びます。メダカの場合、茶体色が優性、黄体色が劣性になります。
体色を決めるのは1つの遺伝子とは限りません。複数の遺伝子座によって決まる形質もあります。幹之などがその例です。
また、メダカの特徴は遺伝だけでなく環境によって左右される事もあります。ダルマが高温で産まれやすい、エサによってより赤い体色になる、など、環境も大切です。これらを、遺伝要因、環境要因と区別します。メダカの特徴は遺伝要因と環境要因によって決まります。
複対立遺伝子
1つの形質について、3つ以上の遺伝子が対立関係にある遺伝子を複対立遺伝子と言います。
先ほどのB遺伝子を例にとると、対立するb遺伝子のほかにB’遺伝子が存在します。B’遺伝子は、黒の斑柄を表現します。3つの遺伝子は同じ遺伝子座にのることができ、その優性関係はB>B’>bとなります。
具体的には、遺伝子型と表現型を下図に示しました。r遺伝子座の遺伝子型がすべてrrと仮定すると、遺伝子型がBB、BB’、Bbの場合は表現型は青色、B’B’、B’bの場合は白斑(白体色+黒斑柄)、bbの場合は白体色になります。
不完全優性
遺伝子座の組合せがヘテロの際、中間の形質が表現されることを不完全優性と言います。
マルバアサガオで紹介されることが多いですが、花を赤くする遺伝子Rと白くする遺伝子rがあります。RRとrrの子どもF1の遺伝子型はRrとなりますが、その表現型(花の色)は赤でも白でもなく、中間のピンク色になります。このようにRとrのどちらも優性とは言えないときを不完全優性と言います。
メダカでは、ヒカリ体型(Da遺伝子)が不完全優性です。通常のメダカでは、背ビレの軟条数が6本であるのに対して、ヘテロでは軟条数が10本前後程度になります。さらに、Da遺伝子をホモで持ったメダカは、背ビレがしりビレと同じ形(軟条数は18本前後)になり、尾ビレが上下対称のひし形になります(=ヒカリ体型)。
体色と色素胞
メダカの体色は4種類の色のついた細胞(色素細胞)によって表現されています。メダカなどの魚では、色素細胞のことを色素胞(しきそほう)と呼びます。
それぞれの色素胞は色素顆粒(しきそかりゅう)をもっており、この顆粒の色によって色素胞に色がついています。色素顆粒は発色化合物を保持しており、細胞内を移動することできます。虹色素胞は、色素顆粒ではなく、板状構造の反射小板が光を反射することによって銀色に見えます。
拡散凝集反応と背地反応
色素胞は、メダカが泳いでいる背景に応じで、色素顆粒を移動させることができます。この反応を拡散凝集反応(かくさんぎょうしゅうはんのう)と言います。メダカの体色は、黒水槽に入れればより黒っぽく、白水槽に入れればより白っぽくなります。拡散凝集反応によって引き起こされる体色変化を背地反応(はいちはんのう)(背地適応:はいちてきおう)と呼びます。
黒色素胞と白色素胞では、拡散凝集反応の挙動が反対になります。つまり、黒水槽では黒色素胞は拡散して黒っぽく、白色素胞は凝集して無色になり、メダカの体色は黒っぽくなります。白水槽では逆に、メダカの体色は白っぽくなります。黄色素胞は、黒色素胞と同様の挙動を示し、虹色素胞はそもそも拡散凝集反応をしません。
下の図の背地反応(短期背地反応)は数分の間に完了しますが、数週間かけて起こる長期背地反応(長期背地適応)もあります。これは、拡散凝集反応ではなく、色素胞の密度が増加することなどによって引き起こされます。
色素胞と体色
メダカの体色(柄などを含む)は色素胞によって表現されていますが、具体的には色素胞の組合せと挙動によって決まります。
野生メダカとヒメダカを例にとると、野生メダカは4つの色素胞を持っているのに対して、ヒメダカは黒色素胞を持っていません(厳密には下図挙動の②の色素顆粒を持っていない、が正しいです)。黒色素胞を持っていないことで、野生メダカとは異なる黄体色を表現しています。黒色素胞を持っているかいないかを決定しているのが、先に述べたB遺伝子になります。
シロメダカでは、黒色素胞と黄色素胞がない(厳密には、黄色素胞の色素含蓄が抑制)ことで白体色に、アオメダカは黄色素胞がないことで青(灰色+光沢で青っぽい)体色を表現しています。
「色素胞がない」と言っても、
①色素胞自体が存在していない
②色素胞は存在するが、細胞内部の色素顆粒がない(生成されない、抑制されている、など)
③ある部分には色素胞が存在しないが、別の部分には色素胞が存在する(=色素胞の分布位置が通常と異なる)
の3パターンがあります(下図参照)。三色メダカは、色素胞の分布位置の変化によって、朱赤、白、黒の3色を表現しています。
黄色素胞は黄色~赤色
黄色素胞とは別に、赤色素胞(せきしきそほう)と呼ばれる色素胞もありますが、これらは明確に区別されていないため、ここではまとめて黄色素胞と呼びます。
メダカの黄色素胞は、黄色から朱赤色、その中間色とさまざまな色合いを持ちます。そのため、ヒメダカと朱赤メダカのように同じ色素胞の組合せを持っていても、体色が異なるメダカが存在します(下図右)。
このような様々な色合いは、色素胞に含まれる色素顆粒の種類や濃度によって生じていると考えられています。黄色素胞には、プテリジン系化合物やカロテノイド系化合物が含まれますが、楊貴妃メダカ(朱赤メダカ)は、カロテノイド系化合物の1種であるアスタキサンチンがヒメダカの10倍含まれているようです。また、カロテノイドはメダカ自身が生成できないため、餌から接種して黄色素胞に蓄えます。与えるエサの種類によって、メダカの朱赤体色が変わる理由は黄色素胞内の色素顆粒によるものなのです。
参考文献
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塩出雄亮、中田和義、「“楊貴妃メダカ”におけるカロテノイドについて」、水産増殖65巻3号p. 203-208、2017年
長尾勇佑、「メダカ体色異常自然突然変異体ml-3を用いた色素細胞運命決定機構の解明」2、名古屋大学大学院理学研究科博士学位論文、2014年
「月刊アクアライブ合本メダカ飼いたい新書2」、エピージェー、2019年
FUJIYAMAめだかのブログ、https://ameblo.jp/fujiyama-medaka/、(参照2020.2.28)